
はじめに
日本のインバウンド観光は、コロナ禍を経て再び回復基調にあります。その中でも、中国人観光客(訪日中国人)は長年にわたり「最大のマーケット」として位置づけられてきました。
一方で近年、「チャイナリスク」という言葉が経済・外交・ビジネスの文脈で頻繁に使われるようになっています。
本記事では、インバウンド観光とチャイナリスクの関係性を整理し、今後の日本の観光戦略に何が求められるのかを考察します。
チャイナリスクとは何か
チャイナリスクとは、中国に依存することで生じる以下のようなリスクを指します。
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政治・外交関係の悪化による規制や制裁
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突然の渡航制限・団体旅行の停止
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国内政策変更による消費行動の急変
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為替・景気変動の影響の大きさ
観光分野においては、「来なくなると一気に売上が落ちる」構造そのものが最大のリスクと言えるでしょう。
インバウンドにおける中国市場の存在感
訪日中国人観光客は、
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消費単価が高い
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団体・個人ともに市場規模が大きい
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地方観光にも波及効果がある
といった点で、日本の観光産業を長年支えてきました。
しかしその反面、
**「中国市場に最適化しすぎた観光地」**が生まれたことも事実です。
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表示言語・決済・商品構成が中国向けに偏る
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他国観光客が居心地の悪さを感じる
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中国市場が止まった瞬間に経営が成り立たなくなる
これはコロナ禍で、多くの観光地が実際に直面した課題でした。
コロナ禍が示したインバウンドの教訓
2020年以降、私たちは重要な事実を学びました。
「特定の国に依存したインバウンドは、非常に脆い」
これは中国に限らず、どの国にも当てはまりますが、
市場規模が大きい分、中国依存のリスクは特に顕在化しやすいのです。
これからのインバウンド戦略に必要な視点
① マーケットの分散化
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中国一極集中から
→ 台湾・韓国・ASEAN・欧米・豪州などへ -
「国」ではなく「価値観・旅行目的」で捉える視点
② 消費額よりも「満足度・再訪率」
爆買い型モデルから、
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体験型
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滞在型
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文化理解型
への転換が、結果的に安定したインバウンドを生みます。
③ 日本人にも愛される観光地づくり
外国人向けに振り切りすぎた観光地は、
国内需要が戻りにくいという問題も抱えます。
「日本人にとっても誇れる場所か」
この視点が、リスク耐性を高めます。
チャイナリスクは「排除」ではなく「バランス」
重要なのは、
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中国人観光客を排除すること
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中国市場を軽視すること
ではありません。
「依存しすぎない」「代替可能な構造をつくる」
これが、持続可能なインバウンドの本質です。
中国市場は今後も重要な存在であり続けるでしょう。
だからこそ、冷静に、戦略的に向き合う必要があります。
おわりに
インバウンド観光は、経済政策であると同時に、
外交・文化・地域づくりとも深く結びついています。
チャイナリスクを過度に恐れるのでもなく、
過度に依存するのでもない。
多様性と柔軟性を備えた観光立国・日本を目指すことが、
これからのインバウンド政策に求められているのではないでしょうか。


