ここ数年、訪日観光客の増加により盛り上がりを見せていた日本の「民宿」および「インバウンド」市場。
特に地方の空き家を活用した民泊ビジネスや、地域文化を体験できる宿泊スタイルは注目を集め、全国的に多くの施設が誕生しました。
しかし、2024年〜2025年にかけて、その勢いには変化の兆しが見え始めています。
本記事では、民宿・インバウンドブームが今なぜ転換点を迎えているのか、その背景と今後の課題についてわかりやすく解説します。
1. 「数」から「質」へ:旅行者ニーズの変化
民宿ブーム初期には、「とにかく安く泊まれる場所」を求める旅行者が多く、宿の質よりもコストパフォーマンスが重視されていました。
そのため、築年数の古い民家を簡易改装しただけの施設や、最低限のサービスしか提供しない宿も急増。
しかし現在では、旅行者の目も肥えてきており、「安いだけ」では選ばれない時代に突入しています。
宿泊そのものが旅の目的となる「滞在型観光」へのシフトが進み、ホスピタリティや施設の魅力、ストーリー性など、総合的な満足度が求められるようになっています。
つまり、「数」を追い求めてきたフェーズから、「質」や「体験価値」に重きを置く時代へと移行しつつあるのです。
2. インバウンド客の多様化と「画一的民宿」の限界
インバウンド旅行者の増加により、かつては英語対応やWi-Fiの設置だけで「外国人に優しい宿」として重宝されてきました。
しかし、旅行者の属性が多様化する中で、「アジア圏の短期滞在者」「欧米からの長期滞在者」「富裕層とバックパッカー」など、求める体験やサービスには大きな差が出ています。
そうした多様なニーズに対し、どの宿も同じようなサービス・同じような和風内装・テンプレート的な「おもてなし」を提供しているようでは、旅行者の心をつかむのは難しくなってきました。
結果的に、リピーターを獲得できず、集客が不安定になっている施設も少なくありません。
3. 民泊・簡易宿所の規制強化
AirbnbやBooking.comなどのプラットフォームを活用していた個人運営の宿泊施設は、一時的に爆発的な成長を遂げました。
しかし、急増する施設に対する安全性・治安面・衛生管理の不備が指摘され、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されました。
180日以内の営業制限、自治体への届出義務、近隣住民への説明義務などが求められ、個人経営者にとっては大きなハードルとなりました。
これにより、撤退する施設や営業停止になる民宿も増加。結果として、民泊の供給はピークを超え、淘汰の時代に入っています。
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4. 円安が招く「安い日本」現象とマナー問題
円安により日本旅行のコストが割安になったことで、特にアジア諸国からの訪日客は急増しました。
その一方で、「安くて便利」を最優先する短期旅行客の比率が高まり、客層の偏りが顕著になってきています。
こうした一部の旅行者によって、民宿の利用マナーやゴミ出しルール違反、夜間の騒音などが発生し、地域住民との摩擦が深刻化しているケースもあります。
結果的に「もう観光客はいらない」と感じる地元の声が強まっており、観光地としての持続可能性に疑問が投げかけられています。
5. 観光公害(オーバーツーリズム)の顕在化
京都、鎌倉、白川郷など、訪日客に人気の高いエリアでは、観光客の増加によって日常生活に支障をきたす「観光公害」が問題視されています。
混雑、交通渋滞、騒音、ゴミ問題などが慢性化し、地域全体の観光価値を損ねる結果となっています。
これを受けて、一部自治体では「入山料」「観光税」「人数制限」などを設ける動きも出ており、「誰でも、いつでも歓迎」だったこれまでの観光戦略は見直しを迫られています。
6. SNS・レビューサイトで可視化される“本当の価値”
現代の旅行者は、予約前にInstagramやGoogleマップ、Tripadvisorなどで口コミや写真を入念にチェックしています。
つまり、「価格」や「立地」だけで宿が選ばれる時代ではなくなったのです。
施設の清潔感、接客の質、食事の魅力、地域との連携などが評価され、悪い評判はすぐに広まりやすい環境下では、施設側の努力が問われています。
簡素な設備や使い回しの写真では、もはや選ばれないのです。
まとめ|民宿と観光業の未来は「再定義」から始まる
民宿・インバウンドブームは確かに一つのピークを過ぎ、今まさに“選別と再構築”のフェーズに入っています。
しかしそれは、悲観すべきことではなく、「本質的な価値」を見つめ直すチャンスでもあります。
価格だけに頼らない、地域との連携やサステナブルな運営体制、旅行者の記憶に残る滞在体験──そうした視点で宿づくりを行えば、ブームの先にある“本物の成長”を実現できるはずです。
民宿業を続けていく上で重要なのは、目の前の予約数ではなく、5年後・10年後の“地域と共に生きる観光”をどう描くか。その未来図を描ける事業者こそが、次の時代の主役となるでしょう。
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