人生に悩んでいた。
しかし、その葛藤は、世間一般的なことだったように思う。
会社勤めをはじめれば、誰でも遭遇する類のものだ。
そのまま勤めていれば、いつの間にか薄まっていく悩みだったような気もする。
僕は計画的な人生を歩むタイプではない。
どんなに計画を練っても、人生はそんなに単純なものではなく、
思い通りにはいかないことも知っていた。
旅に出ると、実際は退屈な時間が多い。
でも、心の空白をどのように埋めようか、そんなことを考えている余裕は正直無かった。
緊張や戸惑いから解放されたのは、いつからだったろうか。
緊張も薄れ、うまい飯屋を探し、夜はどうすれば蚊を防ぐことができるか試行錯誤を繰り返していた。
実は以外にも忙しい。
知らない国を歩く。
その国の言葉や文化、風習も知らない中で、旅を続ける。
心の大半を占めているのは、
「どうやってバスの切符を買うのか」
「快適な安宿はどこにあるのか」
そんなことばかりだった。
一軒のゲストハウスを探すのに何時間もかかって日が暮れたこともあった。
通りすがりの様々な人に聞いていくが、いろんな答えが返ってくる。
果たしてだれを信じていいのか。
どの道を進めばゲストハウスに辿りつくことができるのか。
僕の頭の中は常に決断を強いられていた。
そのひとつひとつをこなしていくだけで、脳細胞はいっぱいになった。
と、こんな話を知人に話しても伝わるはずはなかった。
ひとりの世界だ。
でも、これでよかった。
その時間は尊かったから。
あの旅に答えは無く、後悔もなかった。
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